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Whisper
2024/05/10[Fri]
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2012/05/29[Tue]



誘の過去話。
まだ全員が居た頃。


<嫗視点>

 
 

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桜が散り、木々の枝々に緑が生い茂る。
程よく湿った空気に満たされ間もなく訪れる雨の候。
すっかり生え変わった夏毛も折角手入れをしても、
纏わり付く湿気で意味を成さなくなるこの時期は正直言って好きじゃない。
ただ、雨上がりで草木や蜘蛛の巣に纏う雫を眺めるのは悪くない。
そしてまた雨が降り、周囲を濡らした。

夜明けと共に振り出した雨は、集落を湿気で覆う。
一日中降り続いた雨はやがて月が昇るのを待ったかの如く周囲が暗くなるのに合わせて止んだ。
緩やかに吹き込む風はまだ湿気を含み、それに導かれるようにしてあの人が戻って来た。

滅多に集落に戻る事のない誘の頭首、稉。
先ほどまで降り続いた雨に濡れた様子も足音もなく此方へ近付いてくる。
一体何処で何をしてくるのかも、いつ戻ってくるかも解らない謎の多い人。
唯一つ、今回の帰省で違ったのはその微かに陰気を纏いつつ軽やかに向かってくる後方に、
見慣れぬ顔が一つあったことだ。
稉さんは丁度集落の周辺を見回りに出ようとした俺と目が合うと小さく首を傾げた。
真っ直ぐな紫の瞳と目が合うが、何を考えてるか読めないその瞳。
それがほんの僅か細められる。

「おや、丁度良いところに。嫗に一つ頼みがあります」
「戻る早々ですか。まあ良いですけど・・・って俺、これからその辺見回りなんですけど」
「たかが一夜、問題はないでしょう。それで堕ちるならその程度だけのこと」

時にこの人にとって同胞と言うものが何なのか疑いたくなる事があった。
頭首としての責任感は皆無に等しい。但し的は射っていた。
確かに暗部である自分達がよそ者に一夜にして殲滅されるようなことがあったとすれば、
それは結局名ばかり集団を証明しているようなものだ。
それにこの人は同胞である俺達を信頼した上での言葉ではある。それだけは信用出来た。
万が一集落に夜襲があったとしても滞在する同胞達の力を信じているからこその言葉。
彼が普段集落に滅多に戻ってこない現状もそれを物語っている。
そんな事を脳裏の片隅で考えながら、ワザとらしく溜息をついて小さく頷いた。

「それでは嫗にはこれから闕の世話を頼みます。稉は出ますので」
「は?闕?って・・・え、あぁじゃあまた」

懐から取り出した愛用の扇子を肩越しに後方を指し示す。
その先には視界の先にチラリと映りこんでいた、如何にも陰が薄そうな奴がポツリと佇んだまま俯いていた。
稉さんが“闕”と呼んだそいつは長過ぎて引き摺ってきたのか、
この雨で裾が泥塗れに汚れた浴衣に似た白い羽織をたった一枚羽織っただけの姿。
連れて来たらしい稉さんとは違い雨に濡れ薄い毛色の髪から滴が落ちている。
簡単な一言で俺に貧弱そうなそいつの世話を押し付けると稉さんは早々に背を向けたが、
2,3歩のところで立ち止まるとほんの少しだけ顔を振り向かせた。

「一つ断っておきますが、その子は誘に招いたわけではありませんから。勝手に付いて来ただけです」
「は・・・?」
「役に立ちそうもなければ殺しても構いませんよ。
 いつまでも付いてきて鬱陶しかったので立ち寄っただけです」

無感情にサラリと告げた言葉。まあ、そういうことなんだろう。
この稉という人は嘘は吐かない。だからこそ時に恐ろしい時がある。
自身の思ったままを告げる、相手が傷付こうが関係なく。
ただだからこそ信頼した相手にもありのままを告げる。だから俺もこの人についてきた。
嘘を吐かれるくらいなら傷付く事をストレートに言われた方がマシだ。

ただ、俺がそれよりも驚いたのは「殺しても構わない」と言われた本人が無反応だったこと。
普通どんな奴だって命の危機が晒されたら一瞬くらい微動するのが当たり前だ。
だが目の前に居るコイツは違う。俯いて棒立ちしたまま一瞬たりとも微動だにしなかった。
それどころか、いよいよ話が終わった稉さんが立ち去ろうと再び歩みを進めると、
話を聞いて居なかったのかと疑いたくなるように闕も俺に背を向け歩きだそうとする。

本能的な何かで俺は離れようとする闕の細い手首を掴んで引き止めた。
恐らく行く事を許したら、今度こそ確実に殺される、そう直感したから。
そして予想通り、痩せ細って男とは思えない貧弱な体格をした身体。
掴んだ手首も少し力を込めたら折れるんじゃないかと思うほどだ。
どうしたらこんなに痩せ細れるのかと思ったが次の瞬間にはその思考を振り払う。
此処では他人の過去は突っ込まないのがルールだ。無言で引き止めて稉さんを見送った。

「お前、死にたいのかよ。あの人嘘吐かねーから本気だぞ。止めとけ」
「・・・・・」

何処から来たのかは知らない。ただ、あの人は「勝手に付いて来た」と言った。
放浪趣味で何処に居るかも解らない稉さんの後をひたすら付いてきたのだとしたら肝は据わってるのか。
この痩せ細った身体で、走ったら直ぐにでも疲れ果てそうな身体で。
ただもしかしたらその精神力の強さを見た上であの人は殺すのは止めたのだろうか。
暗部と言えど依頼以外の無駄な殺生はしない主義、と言ってたのを不意に思い出す。
まあだからといって役に立たないから俺達に殺して良いと言うのも酷い話だが。

抵抗してくるのかと思いきや、闕は俺に手首を捕まれたまま大人しく立ち止まって、
ひたすら稉さんが消えた方角を見つめている。
貧弱そうな容姿の所為なのか、それとも装いの所為なのか、生気さえなさそうに感じられた。
扱いに困って何気なく後方にある集落の方へ視線を向けているだけで、
手を掴んでいなかったらそこに闕が居る事すら忘れてしまうくらいの気配すら薄い。
直感的に扱い難そうだ、と内心溜息を吐いていると遠くから別の声が聞えてきた。

「ねえ嫗!見回り終わったー?・・・あら」

不意に視線の先から聞きなれた声、威沙だ。誘では数少ない女の同胞。
動き難そうなひらひらした着物を纏いこっちに手を振ってくる。
夕餉の支度でもしていたのか、白の割烹着を着たままだ。
そんな威沙は隣に立つ闕に気付くなり不思議そうに俺の方へ視線を向けてくる。
先ほどまでの経緯を説明すると威沙は少し怒ったように眉を歪めた。

「んもう、戻ってくるんなら夕餉くらい同席してくれたら良いのに。
 稉さんたら相変わらず賑やかなところ苦手なんだから」
「いや・・・そういうわけじゃねーと思うけど」
「良くないの。さ、それじゃ少し冷え込んできたし夕餉前に先ずは闕のお風呂と着替えね。
 私は着れそうな服探してくるから嫗はあと宜しくね」

威沙は見かけに因らず強引と言うか勢いが良いのがデフォルト。
誘に来た頃は周りの反応を気にし過ぎてる感じだったが、
元々此処に居るやつらの適当さに強さを見出したのか鍛えられたのだろう。
今では衣食住の殆どを威沙が受け持っている事もあって逆らうやつは居ない。
寧ろ平和に纏めているのは彼女のお陰なのか。

何故か嬉しそうな威沙は俺に押し付けた後、闕の姿をじっと正面や後ろから暫く眺めたあと、
一人心地に頷いて闕に笑いかける。
だが当の本人は微かに顔を上げただけでやはり無反応だった。
そんなこと気にもせず威沙は俺と闕に手を振ると小走りに集落の中へと戻っていく。

そうして新たに増えた集落の住人。
無反応な闕と誘の住人達の始めての出会い。


*****


「で、アイツは?」
「ええ。闕なら朝早くから洙艶と一緒に戦術習いに行ったみたい」

威沙みたいな女は多少別としても誘で生きて行く為にはそれ相応の戦闘能力を習得しないと生きていけない。
それは自然と誰もが心得ている事ではあるが、そんな説明やら集落のある程度の決まりを闕にも教えた。
だが初日の夜、アイツはやはりどんな言葉にも無表情でただ最後に一つ頷くだけ。
誰が話掛けても黙ったまま。
とは言っても話している相手の目は見ているようで興味がないわけではない様子ではあった。
世話係を任命された都合上無視する事は出来ず、何だかんだで寝床も一緒になった俺だったが、
生きていくための術を他人に教える程出来上がってないのは自覚がある。
だから夕餉の際に珍しく同席した洙艶をとっ捕まえて押し付けてみた。
だが結局洙艶に始終拒否をされ続け、げんなりする羽目に。
その夜はそれで終わって朝を迎えたわけで。
と、面倒臭いながらも翌朝、目を覚ましてみたら隣の布団で寝ているはずだった闕がいない。
そして今に至る。
掃除の最中だった威沙は何事もなかったようにサラリと答えたが、
最後にくすっと笑ったのは見逃さなかった。
「気になるなら様子見に行ったら?」と続けて返されたがそれを拒否。
散々拒否しておきながら結局指南を買って出た洙艶へと一人心地に不満を垂れながら、
する事もなくなったままブラブラと集落内を散歩して過ごす事に。

それから暫くすると集落の入り口に闕の姿を見つけた。
ただぼーっと外を眺めているように立ち尽くしている。
一緒に出たはずの洙艶の姿はなく、散歩の途中で朝餉も出来て威沙に呼ぶよう頼まれた俺は相手に近付く。
相変わらず数メートル近付いても闕の気配は殆ど感じられなかった。
敢えて消しているとも思えない。だからこそか、俺は思ったままをつい口にした。

「お前って全っ然笑ったり怒ったりしねーし気配もねーし、なーんか人形みてぇ」
「・・・・」

やっぱり返答はない。ゆっくりと振り向いたところで少しは反応を見せるかと思ったが。
ただ無言で見つめ返す青い眼。
本来なら他人に見つめられる行為は居心地の良いものじゃない。
だけどコイツの、闕の視線は文字通り酷く無機質で生物特有の視線に感じられず、暫く見つめ合いが続いた。

「・・・稉さんにも、言われました」

長い沈黙を破ったのは闕の控え目な少し高めの声。
漸く聞いた始めての言葉。その言葉も声も雰囲気同様に覇気は感じられない。
淡々として棒読みに近い。
流石の俺も少々気まずくなって頭を掻きながら視線を外してしまう。

「悪ィ。気にしたか」
「いえ。・・・人形でも、良いんです」
「は?そこ喜ぶとこじゃねーだろ」

調子を狂わされたのは此方の方。自分を人形扱いされて喜ぶ奴がいるのかと。
いや、本当に喜んでいるのかどうかも闕の場合はわからない。
性分で突っ込んでしまったが、それっきり闕は黙ってい再び微妙な沈黙が生まれた。
程なくして仕方なく、取り敢えず会話の区切りがついたと棒立ちする闕に向かって顎をしゃくって合図する。
気付いた相手は無言で小さく頷いて俺の後をついてきたが、
ふと立ち止まると振り返って集落の外を見つめていた。
気付かぬフリはしたが、恐らく・・・俺の思案は当たってる気がした。

***

それから闕は暫く時間は掛かったが少しずつ集落に馴染んできて、
洙艶から専用の暗器を与えられて腕も磨いていくようになった。
吸収は良い様で、戦術については瞬く間に身に付けているようだ。
少しだけ焦った俺も真面目に腕を磨きつつ、
暇な時はひたすら一人で居る闕を半強制的に連れて集落の外へも出たりと、
なんだかんだ充実した生活を送っていて満更でもない。
常に無表情で何を考えてるかも解らない相手だったが、
寧ろそんなやつだからか、傍で生活するのにそれほど悪いものでもなかった。
特別面白い事があるわけではないのだが悪い気はしない。
それもあってか闕と俺はよく連れ立って集落のみならず少し離れた人里へ降りる事もするようになった。
ただ、それと同じくして闕はその間中も頻繁に集落の外へ視線を向けることも多かった。
恐らく置いて出て行った稉さんの事が気になるんだろう。

それから暫くして闕はある日突然集落から居なくなった。

突然居なくなった事に威沙は毎日の様に気に掛けてはいたが、
俺は内心いつかそうなるだろうと踏んでいた部分もあった所為か落ち着いていた。
闕は結局それから三月以上集落に戻ってくる事はなく、文もない。
何処で何をしているのかも解らず流石の威沙も表立って心配する気配が薄れてきた頃、
あの日と同じ雨が上がったばかりの日暮れ間際。
連絡もなしに集落へと戻ってきた稉さんと共に戻ってきた。

その時見た闕は出て行った当初と殆ど変わらず、相変わらず人形みたいに無表情だったが、
良く見るとその肩には俺達と同じ刺青があった。
誘の同胞だけが持つ刺青。全員が身体の何処かに持つもの。
そしてその命が尽きた時、そいつの刺青は稉さんの身体へと移る。
どうやら居なくなっていた間に稉さんを見つけ、闕もまた同胞として認められたようだ。
それが結果として良かったかどうかは解らない。
だがきっと集落に戻ったら威沙を筆頭とした同胞達は歓迎するだろう。

「稉さん、またすぐ出るんですか」
「特に急ぐつもりはないですが。望むなら出てもいいですよ」
「や、いいです。それデジャヴになるんで。それより闕のこと認めたんですね」
「余りにもしつこいので。とは言え予想以上の出来栄えでしたから」
「はあ・・・」

何の出来栄えなのかは敢えて聞かない。聞いても理解出来るような気がしなかった。
暗部集団の頭でありながら集落や同胞と共に過ごす時間は極端に少ない。
更に気さえ向けばこの一瞬にでも同胞を手に掛けようとする事も有り得るくらいに気紛れな人。
舞い込んで来る大富豪だとか大名だとかの巨額を積んだ暗殺依頼でさえ、
興味がなければ一言で断るくらいだ。
他人への興味や関心も理解出来ない分野が多すぎて考えるだけ無駄だと、出会って間もなく理解した。
「そういう人なのだ」で済ますのがいい。
感情を表現しない闕と理解不能という意味では似ていると言えば似ている。

「嫗」
「ん?」

先に歩き出した稉さんが集落内へ進んだのを目で追う。
それに連なって踵を返しかけた所で闕に名を呼ばれて振り返る。
何ヶ月か一緒に居たが呼ばれる事は数えるくらいしかなかっただけに、新鮮味が残っていた。
肩口に彫られた刺青をそっと手で触れながら、控え目な言葉が続く。

「え、っと・・・あの、・・・ありがとう」

聞き取れるか聞き取れないかの小さな声に思わず目を丸くして固まる。
闕の口から漏れた礼を受けたからじゃない。
もしかしたらそういう風に見えたような気がしただけかもしれない。
ただほんの、ほんの一瞬だけ、どんな事をしても無表情を崩さなかった闕の目元が綻んだ気がした。
瞬きした直後には変わりない無表情。
やっぱり気のせいだったのだろうか。
俺の思惑を他所にそれだけを告げると闕は稉さんの後を追った。
その背中を眺めながらちょっとだけ得した気分に浸る。

いつかきっと闕がちゃんと笑うことが出来る日が来るのをこっそりと願いながら・・・




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誘の過去話。うーんオチが全くない。
闕と嫗は何気に仲が良い、って言うのを入れたかったはずなんだけどどうも何かがズレたよね。
洙艶は都合により直接出すの止めました/(^o^)\
視点を嫗にしたのは単に一番書き易そうだったから。三人称の書き方なんて...orz

闕が鎖され渓谷に向かうのはこれから暫く経った後かな。
戻ってきた後に威沙辺りに「心配するから/contactくらい飛ばしてよね?」て怒られるんだろう。
でも再び出てった後も飛ばさずに渓谷に入っちゃうとかね。
定着したくらいに連絡入れるんだけどその時既に威沙も嫗も誘には居ない。
脱退組の話も出したいなーっていうささやかな目標。


でも此処のところ和ばっかだったのでそろそろ靫さん側か彪生側に飛ぼうかとも...


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