ペット 忍者ブログ
Whisper
2024/04/28[Sun]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2012/11/06[Tue]

【始】
○闕視点○

※ 他所の世界観が含まれます。一部曖昧な表現陳謝。

*********

今でも忘れない。あの日のこと。
風一つない少し湿った雨上がりの夜。
覗いた月明かりの僅かな光が暗闇の室内にある小さな小さな窓から差し込む。
そこから見える景色が外の世界の総て。雨上がりだと解ったのは微かな匂いがあったから。

確かあの日は、秋が終わり。冬の訪れの頃。
昼間は温かくても夜と早朝はひんやりとしたそんな季節。
その日は頭から何度も何度も冷たい水を掛けられて全身ずぶ濡れになった。
日が落ちてくると急激に気温が下がり見る見るうちに手も足の先も変色したけれど、着替えなんてあるはずもなく、唯一取れる暖は哀れみ程度の薄い布団代わりの布一枚。
ただ、それすら当たり前になっていて震える身体を小さな手で摩りながら窓から見える微かな月を眺めた。
夜の間は静かで誰も居ない。それが唯一の安堵だった。
けれど、あの日は怖いほどの静けさに包まれていたのを覚えている。

雨上がりも間もなくで、覗いた月も直ぐに隠れ、また顔を出す。
何度目かの陰りに入り、ゆっくりと再び月明かりが差し込むのに合わせて混じった血の匂い。

「何が隠されてるのかと思えば」

血の匂いとやってきた静かで酷く落ち着いていて淡々とした声。
硬く閉ざされているはずの個室の扉。入ってきたのは白く尋常でない長さの髪を持つ男。
俺を見て、紫色の瞳は言葉とは裏腹にその表情が変化する事はなかった。
ただじっと、暫く見つめてくる。けれど人に見られるのに慣れて居なくて視線を床に伏せた。
視界の端に映ったのは彼が手にして居た血のように真っ赤な扇子。
そこから滴り落ちた赤が湿った床に色をつける。

「貴方を殺す気は失せました」

決して色を受け入れる事のない冷たい床のように、次に告げられた言葉。
顔を上げた時には既にそれは背を向け、長い髪と尻尾が揺れ、遠退いていく様が視界に映る。


気付いた時にはその背を必死に追っていた。



*****


稉さんがあの時何故、殺さなかったのか。必死に追った時、何故無理に突き放さなかったのかその理由は未だに解らない。必死に付いて、辿り着いたのは誘の集落。それから俺は初めて人の温かさ、というのに触れた。
けれど解らなかった。何の為に優しくするのか。どうして集落の皆は俺に付き纏ってくるのか。
最初のうちは解らない事が多くて、正直混乱もして、辛かった。だから気付いたらまた集落を出ていた。

何処に居るのかも解らないまま放浪している途中に稉さんに会った時、あの人は相変わらず一人で出て来た事に対して何も言わない。あの時と同じ様に暫く見つめると、付いてこいと告げるように赤の扇が揺れ、その後を追った。
無言で、ただひたすら。外の世界総て目にするのが始めてで風景に興味を引かれた。稉さん自身、人目を避けて居たかは解らないが道中すれ違った人は殆ど居ない。寧ろそれは好都合だった。

日も暮れて辺りが薄暗くなる頃、其処に着いた。
周囲は霧が立ち込めてやや視界を奪う。流れる空気もしっとりとしている。適度に湿気を帯びているからか、周りの草木は生い茂ってその青い葉に小さないくつもの水滴が付着していた。
そしてゆらりと視界に現れたのは来訪者を拒まんとする硬く閉ざされた扉。
その扉は何処となく、自分と外界とを阻んだあの部屋の扉に似ている気がした。

そこは『鎖され渓谷』と呼ばれる場所。



*****


「此処、闕君のお気に入りです?」

咄嗟に降ってきた声。主は洙艶。完全に不意を突く形で声を掛けられビクッと肩を震わせ反射的に身体を引き、腰に据えられた刀の柄を掴むが、洙艶だと認識に至って肩の力を抜く。
相変わらず飄々としていて此方が応戦体勢を取っていても本人は手にした団子を頬張っている。多分、いつも通り途中の茶屋で仕入れてきた茶団子。
一見余りの無防備さに見える姿。その状態で、この数十センチしか離れていない至近距離から攻撃を仕掛けても易々と交わすだろう。洙艶の戦闘能力の高さは集落に居た時つけてもらった稽古の最中である程度までは把握していた。
小さく息を吐いて手を腰から引き、体勢を戻す。

「半日、休暇を頂いたから...。渓谷に来た時の事、思い出してた」
「そう言えば闕君が稉さんと此方へ来たのはまだ水音家が実権を握る前でしたね」
「うん。今とは少し違う、感じ」

連れられて踏み入れた渓谷は外界と遮断されているとは安易に想像出来ない程度に穏やかな空気が流れていた。
行き交う町人達が所々立ち止まっては雑談をしている姿をあちこちに見つける。
前を行く稉さんは門番にほんの僅か目を細めるだけの遣り取りを交わし、すぐに歩き出す。その背を追った。
外から人がやってくる事自体が珍しいのか、見慣れぬ自分たちを見止める周囲の視線が度々突き刺さる。
それに慣れず、人目を避けるように俯いてしまうが稉さんはそんな事は意に介した様子もなくひたすら道を行く。
程なくすると空気の流れの変化を感じた。それまでとは違って張り詰め重さを含んだ空気。
周囲を見渡せば先程まで居た町人たちの姿は酷く疎らで人気が少ない。
そしてその視界の先には大きな屋敷が聳えている。

『水音家次期当主、銀杏。稉と誘の名を出せば通して頂けるでしょう』

それだけを言い残して稉さんは去った。何故だかは解らないけれど、その張り詰めた空気には冷たさと無を感じた。
始めての場所で誰も知らない何も解らないのにほんの少しだけ、居心地が良く感じられたのはその所為だろうか。
温かさに慣れて居ない自分には、それくらいが丁度良いのかも知れない。
そうして踏み入れた水音家。そして銀杏様との初めての出会い。

正式に契約を交わしてから知った事実、それは誘の同胞、嗄々が幸平家に先に仕えて居たこと。
稉さんからは何も聞かされなかった。否、そんな事考えもしなかった。
だけど、あの人は総て知っていたはず。それでも俺を水音家に紹介した意図は?
幾ら考えても、今でもその答えは見つからない。

「闕君、どうかしました?」
「……あ。ごめん、また考え事」

不思議そうと言うよりはどこか楽し気な珍しく弾んだ声音にどきっとして我に返る。
洙艶ならその答えを知ってるだろうか。

「…何故稉さんは嗄々が居るのを知ってて俺を此処に連れてきたのかな」
「掟では同胞同士の殺し合いは認めていないのに?と言うわけですか」
「うん…」
「闕君、君にはまだ解らない事が沢山あるでしょうが、稉さんが謎なのは今始まった事じゃないですよ。
 寧ろあの人は直感で動く人なので、嗄々が先に居るという事実を気にしてないんじゃないんですか」

意図も簡単に返って来た答え。確かにしっくりときた。集落に居る時も、嫗が度々口にしていたし納得がいく。
結局当時は幸平家に仕えていた、事実上敵対していた嗄々と直接的な交戦をすることはなかった。
過去に起こった騒動の最中、幸平家の次期当主が渓谷を去った情報が耳に入り、渓谷から彼の一族の殆どが姿を消した。その中に嗄々の姿がなかったことできっと一緒に去ったのだろうと。

彼女の事は何も知らない。ただ、同胞という事だけ。
俺が加入した時には既に彼女は渓谷に来ていたようだったし、そのあと直ぐに集落を出た俺が遭遇する機会があるはずもなく。ただ、威沙からほんの少しだけ聞いたけれど余り覚えていない。
たった一度だけ顔を合わせた事があった。その時の強い意志を持った瞳が印象的だった。当時の俺には、ないもの。纏った雰囲気だけで彼女と万が一交戦する事になったら確実に苦戦を強いられるだろうな、とその時にぼんやりと考えたくらいだろうか。

渓谷から姿を消して間もなく、彼女の死は稉さんからの便りで知った。


そして銀杏様が渓谷での権力者として君臨してから少し、依然とは空気が変わった。それは俺にでも分かる。
滅多な事では誰も口にはしないけれど、稀に良くない話は耳にした。
政治の事や、そもそも外部から来た俺には難しい事の一切は分からなかったけれど、それでも俺自身にとっては誘の集落よりも水音家に居る方が居心地が良い。そんな気がする。
銀杏様も俺も余り会話する事はないし、正直仕えたての頃は凄く苦労もした。
今になって漸くあの方が何を考えてるか分かってきたんじゃないかと思えるのは、成長出来ている証拠なのかな。

俺にとって初めて居場所を与えてくれた人。必要としてくれた人。
周りで誰がどんな噂をしていようとそれは変わらない。

「稉さんも、今の俺を…作ってくれるキッカケをくれた人。
 銀杏様は今の俺を必要としてくれる人だから…稉さんが来ても、俺は迷わず戦う」
「良いんじゃないですか。闕君に守りたいものが出来たのならその心に従うべきです」
「洙艶には、ないのか?」
「洙には…――。ああ、どうやら噂をすれば、ですね」

最後まで返答を聞かずして隣に腰を下ろしていた洙艶が立ち上がる。
目を細めて悪戯に笑みを浮かべたかと思えば、手にした団子の最後の一つを口に放り込み、居座っていた屋根から程近い塀へ飛び移り更に敷地の外へと容易く出て行ってしまった。
聞き逃げというか言い逃げと言うか、彼らしい。
道端に降り立った洙艶が此方を肩越しに振り返ってその瞳と目が合う。
いつものように“また今度”と視線を交わし、のんびりと町人の多い通りへと向かうその背中を見送った。

「此処に居たか、闕」

下方から聞えてきた落ち着き払った低い声。
屋敷の中庭から此方を見上げて居るのは、俺が今主人として仕える銀杏様。
この渓谷の実権を握る水音家当主、その人。
チラリ、と屋敷を囲む高い塀、洙艶が去った方角へと視線を送って居るところを見ると、彼が来ていた事には当然ながら気付いているはずだろう。消そうと思えば容易に気配を消す事が出来る洙艶がそうしなかったのもワザとで。

洙艶は定期的にこの渓谷にやってくる。銀杏様の扱う武具の調整を請け負っているから。それ以外にも誘の面子の扱う暗器の総ては彼が精製したもので、ついでに俺のも見てくれていた。ただ、それ以外にも時々こうして用件とは別にやってくる事があるのだが、その際は何故かこうしてワザとらしい所業をしていく。何故なのかは分からないがどうも本人は遊びの一環なのか楽しんでいるよう。
それを度々されている銀杏様と言えば…特に何を言うわけでもなく、溜息一つ吐かないのは流石と言うところだろうか。そんな二人の様子を眺めたのも束の間、掛かった声に瞬時に反応して屋根から音無く飛び降り主の足元に降り立つ。

「何か急用でも?」
「ああ。入用だ」

感情を感じさせない表情のまま、短い言葉を交わして背を向ける銀杏様。
どんな用事なのかとか、先程までの事をどう感じているか、そんな事気にする必要もない。ただ従者として主の意のままに従うだけ。そうする事に意味を見出したのは自分自身。
生まれて初めてした『決意』。

少し先を行く彼の背を追い歩き出すと、緩やかな風が吹き抜ける。
立ち止まって見上げた空は夕暮れも近く、ほんのりと橙色に色付き始めていた。




*********************


回想だったり物思いに耽ってるところがちょいちょい入ってるので読み難いかも or2
飛び飛びで支離滅裂感も否めない(´ω`;)
闕は元々空っぽな子なので今いろんな人に囲まれてあれこれ解らんこといっぱい。
って言うのが伝わったら良いかな~




PR

<<【°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°】HOME【誘+α】>>